松下 佳広第10期/2018年9月修了/都市計画コンサルタント

論文タイトル:公民連携による公共空間のマネジメントに関する研究
-都市利便増進協定に着目して-

 私は都市計画コンサルタントとして日々まちづくり/都市計画の実務に関わるなか、学術の立場からも今とこれからのまちづくりを眺め、自分の立ち位置を見定めたいと思いまち大の門を叩いた。
 修士研究では公民連携が進むと公共空間はどうなっていくのだろうという点に強い興味を持ち、テーマに選んだ。なかでも都市利便増進協定は他の協定制度と比べてフレキシブルで、大変有用な協定制度となり得ることに可能性を感じた。また在学中に日本都市計画学会の査読論文投稿にもチャレンジし、先生方のご指導によりなんとか査読論文を通すことができた。大変貴重な体験であった。
 これまでの私であれば自分の実務を題材に学術論文を書こうとは夢にも思っていなかったが、今後は学術的な整理にも定期的にチャレンジし、実務へのフィードバックをしたい。このような心境の変化を与えてくれた本大学院及び先生方、同志の皆様へ改めて御礼申し上げたい。

大木 寧子第9期/2018年9月修了/地方公務員

論文タイトル:木造密集市街地解消を契機とした低家賃住宅の減少と居住支援の課題
—東京都北区田端地区を中心として—

 私は、大学で都市計画やまちづくりを学んだ後、早く現場のまちづくりに携わりたく大学院には進学せず地方公共団体に就職した。業務では、土地区画整理事業や公有地活用のプロジェクト等に携わり、事業を進める上での困難さや制度運用の実態を知ることができた。一方で、細分化された業務の中で、長期的な視点や俯瞰的な立場からまちづくりについて再度考え直したいと思い、まちづくり大学院に入学した。
 修士研究では、携わった業務の中で生じた疑問を中心にテーマを深堀りさせてもらい、住宅政策の視点から木造密集市街地解消における課題を追った。まちづくりを進めていく上では、ひとつの事業のみでは完結せず、様々な計画、制度、プレーヤー等の連携、同時にそれを包括するビジョンが非常に重要であることがわかった。大学院を修了した今、この研究成果とまちづくり大学院で得た学びを仕事を進めていく上でも活かしていきたい。

木賃アパートの建替え状況
左の写真の出典:「田端事業誌」

片桐 暁史第9期/2017年9月修了/鉄道会社(不動産業)

論文タイトル:多世代居住型まちづくりにおける居住者交流に関する研究
─サービス付き高齢者向け住宅と一般住宅の併設事例を対象に─

 鉄道会社で都市開発に約10年間携わってきた中、我が国の人口減少等の実態と将来像を正確に理解し、長期的視点からそれらを克服できる持続的まちづくりのあり方について学びたく、入学した。
 修士研究では、業務でも計画している『多世代居住型まちづくり』をテーマとした。サービス付き高齢者向け住宅と一般住宅の併設事例を対象に、インターネット検索調査により事例を全数抽出し、整備状況の全体像を明らかにした上で、アンケート・インタビュー調査により、居住者交流や事業者の取組について把握を行った。結果、高齢者向け住宅と一般住宅が単に併設されるだけでは異世代交流は進まず、交流促進にはハード(交流施設の整備、自然と顔を合わす配棟・動線計画等)、ソフト(事業者による交流イベント企画等)両面からの取組が有効であることが分かった。
 働く中で抱いた課題や関心に対し、学術的アプローチから取組み、それを実践していけるところが、本大学院の大きな魅力である。

研究対象とした『多世代居住型まちづくり』イメージ
出典:NTT都市開発㈱「つなぐTOWNプロジェクト」概要資料をもとに筆者作成

伊達 康之第8期/2017年9月修了/地方公務員

論文タイトル:地方公共団体における公共施設マネジメントの実現性
─東京都区市における個別施設計画の現状と課題─

 私は大学で建築学を学んだ後、建築士として建築設計を行ってきた。数年前に地方公共団体に転職し、現在は建築やまちづくりの業務に就いている。それを契機にまちづくりについて学び直したいと考えまちづくり大学院に入学した。
 修士研究では主に個別施設計画の現状と課題について、指導教員の指導のもと地方自治体に対しアンケートやヒアリング調査を行いながら論文をまとめた。修士研究を通じて業務に関する知識、現状を整理し直す事が出来、今後の計画策定の際に参考になると共に、またそれらを題材として今後も更に研究を深めたいと考えている。私にとって研究と仕事は相乗効果となり双方によい効果を生んでいると思う。
 また、まちづくり大学院を通じた人々との交流は人生観を変える程刺激的な経験であり、私にとって最大の収穫であった。

修士研究におけるアンケート調査結果より

道祖 英一第8期/2017年3月修了/地方公務員

論文タイトル:広域交流拠点駅における「駅まち広場」の空間・運営の実態と
アクティビティとの関係に関する研究

 駅前が乗換の交通広場で留まって良いのか。これからは都市(空間)を使う時世になると見越して、浜松・姫路駅など人々が憩い集う駅前空間を「駅まち広場」として2年間研究した。
 その研究を生かし、自身が業務で携わっていたリニア中央新幹線神奈川県駅(2027年開業予定)の駅前空間の検討においても、人・もの・情報・産業交流の場として、(仮称)シンボル広場を駅利用主動線上に配置する整備計画を策定することができ、今後、その計画の実現に向けた取組を進めることになる。
 また、現在はリニア大阪開業を見据え、2040年のライフスタイル、ビジネススタイルのあり方等国土政策の検討を担っているが、幸運にもまちづくり大学院の講義で学べた視野、知見を生かせている。特にまちづくり大学院において一期一会で巡り合った方々と業務の相談を行う機会に恵まれ、修了後、改めて入学して良かったと、背中を押してくれた家族・職場に深謝している。

リニア中央新幹線神奈川県駅イメージ
出典:相模原市広域交流拠点まちづくりパンフレット(H.29.2)を一部加工

高濱 康第8期/2016年9月修了/地方公務員

論文タイトル:「交差点マネジメント」の有効性に関する研究─福島県郡山市における
渋滞緩和策の効果に着目して─

 私の修士研究は、業務上の課題を研究材料に、自らの提案を試行的に具現化する形で関係する行政機関(国・自治体・警察)と連携し、ビッグデータ等の提供による分析・検証に独自の調査結果を加え、成果としてまとめた内容である。
 具体的には、自治体職員として勤務する地方都市における交通渋滞の緩和策について、課題抽出時点から効果発現までを「見える化」し、出来るだけ早く・上手く・安く仕上げる手法「交差点マネジメント」に着目して整理した。研究成果は、都市内代表交通手段分担率(自動車依存割合)等が類似する地方都市における渋滞緩和手法としての採用をはじめ、各関係機関で事業継続に係る予算確保の根拠など、徐々に浸透・定着しつつある。
 また、本研究は、実務論文として交通工学論文集(特集号)への掲載並びに第37回交通工学研究会で発表論文として採択されるなど一定の成果を上げており、今後も継続的な事業展開が図られるものと考えている。

「交差点マネジメント」の有効性フロー

R.N.第6期/2017年9月修了/コンサルタント(再開発等)

論文タイトル:被災地方都市のまちなか復興における市街地再開発事業の事業管理に
関する研究─石巻市の復興再開発事業における実践と課題─

 入学当初は不動産デベロッパーに在籍していたが、その後、まちづくり大学院の学外講師の事務所に転職し、コンサルタントとして東北の復興再開発事業に従事した。
 論文は実践研究とし、石巻市の復興再開発事業における事業管理に関する研究を行った。まちづくり大学院において、身の丈開発の重要性、地域の魅力を残しながらまちづくりを行うことの重要性、コミュニティの重要性、また、既存制度のみに捕われるのではなく、まちづくりのために柔軟に事業を進めていくことの重要性等を学ぶことにより、実務としてのアイデアや、事業進捗に自信を持って対応することができた。これらの経験を活かし、現在新たな事業も進捗している。さらに、まちづくり大学院卒業後もまちづくりにおける様々な立場の人と継続した繋がりがあり、相談、議論できる人がいることは大きな糧となっている。

「復興再開発事業(石巻市中央三丁目1番地区) 竣工」

西村 愛第6期/2014年9月修了/国家公務員

論文タイトル:フランスにおけるエコカルティエの取組過程と実態に関する研究

 国土・地域政策分野の国内制度や国際業務に携わる中、広く学識者から学びグローバルな視点を持ちたいと考えて研究を始めた。特に他国との議論を通じて、地球環境問題への対応を地域の社会課題とともにどのように取り組んでいくかが各国共通の課題と感じていた。
 そこで、研究ではフランスの取組みに焦点を当て環境都市政策の変遷過程と地域における実例を取り上げた。
 本研究の成果は、現に起きている事象を単なる紹介ではなく独自の視座をもち分析することの難しさを認識することにあったと感じている。研究領域においては、同様の課題に直面する他国の取組みを把握する一資料となり得ただろうか。本研究への挑戦は、現在、分野や国籍等を越えた多様な交流をより深め、自身にとって課題に対する新たな方策やフィールドを拓く原動力となっている。

フランスの環境配慮街区・エコカルティエの事例(グルノーブル)筆者撮影