- 対象場所: 群馬県
- 構成メンバー: 髙見淳史准教授、パラディジアンカルロス講師、羅力晨(令和4年度 博士課程修了 ・ 広島大学先進理工系研究科 研究員)、上条陽(令和4年度 博士課程修了・ S.RIDE株式会社)
自動運転車が登場したら世界はどうなるか
近年、自動運転車などの交通新技術が進展し、これが将来の交通セクターに与える影響が焦点となっています。具体的には、人々の交通利便性が向上する一方で都市の低密化が進む可能性があることなどが注目を集めています。都市交通研究室では、このような交通新技術による交通行動、都市構造への影響に焦点を当てて研究を行っています。群馬県を対象としたケーススタディでは総合的な交通予測手法が提案され、自動運転車による人流や輸送の変化、さらには自動運転サービスとその乗合運用に注目した日本の地方都市における将来の様々なシナリオの定量的評価が行われています。
定量的評価に際しては、エージェントベースシミュレーションという微視的に車両、乗客の関係を捉えることのできる手法を用い、さまざまな政策を適用した仮想シナリオのもとでの利用者の交通行動を予測しています。
→ エージェントベースシミュレーションのイメージ

需要予測に関する行動モデルの推定やさまざまな政策シナリオの分析から、自動運転車の導入により総移動距離とCO2排出が増加する一方、アクセシビリティは向上することが示唆されています。下図には通常の車が2040年までに利便性の高い自動運転車に置き換わったと仮定した場合のアクセシビリティ(左)と、置き換わらなかったと仮定した場合のシナリオとの差(右)が示されています。この図から、アクセシビリティは郊外部よりも中心部において高くなっていることがわかります。また一方で、自動運転車の普及による利便性の増加分については郊外部のほうが高くなっていることがわかります。ここから自動運転車が普及することによって郊外部の利便性が現在と比べて大きく上がり、それにより都市のスプロール化が加速するという示唆が得られています。

また一方で、本プロジェクト内での自動運転車の乗合運用に関する研究では、自家用車依存度の高い地域でも、自家用の自動運転車を制御して乗合運用自動運転車を導入するシナリオの実現可能性が利便性の面や事業採算性の面で確認されています。

(どちらも上から順に集中居住、現状、分散居住のシナリオのシミュレーション)
これまでの挑戦
交通分野における研究では多くの場合、データの不足が問題であるとともに、エージェントベースシミュレーションなどの分析手法そのものが発展途上であることが課題となっています。本プロジェクトの中では利用者の意向などのアンケート調査を主体的に行うとともに、各シミュレーションについて緻密な検証を行うことによってこれらの問題の克服を試みています。さらに乗合運用を適用する自動運転車のシミュレーションに際しては、自動運転車の配車アルゴリズムの構築、合成人口の生成といった挑戦的な取り組みも行っています。
今後の展望
このプロジェクトによって自動運転車という技術が交通行動と都市構造に与える影響をより理解し、将来の政策決定に寄与することが期待されています。
CO2排出の増加などの負の影響を最小限に抑えつつ、自動運転車の導入によるアクセシビリティ向上などのポジティブな面を有効活用する、バランスの取れた交通政策の提案に繋げられると考えられます。また、自動運転車を乗合運用するといった、単純な利用を超えた新しい利用方法についても利用者の行動をモデル化することにより、地域社会のモビリティに関しても更に具体的かつ綿密な検討ができるようになることが期待されます。
参考文献
- Luo, L., Parady, G., & Takami, K. (2022). Evaluating the impact of private automated vehicles on activity-based accessibility in Japanese regional areas: A case study of Gunma Prefecture. Transportation Research Interdisciplinary Perspectives, 16, 100717. https://doi.org/10.1016/j.trip.2022.100717
- 上条 陽, 藤垣 洋平, パラディ ジアンカルロス, 髙見 淳史, 原田 昇, 都市構造の差異に着目したシェア型自動運転サービスの影響評価 -人口全体の移動需要を考慮したシミュレーションを通じて-, 土木学会論文集, 2023, 79 巻, 2 号, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejj/79/2/79_22-00244/_article/-char/ja